「クルーグマンコラム」から考えること

かなり以前になりますが、今年の8月12日の朝日新聞に掲載されたノーベル経済学賞受賞学者であり、『活動的』で「歯に衣着せぬ直言」で有名なポール・クルーグマン博士の『コラム』が設けられていました。現状のアメリカの社会状況を憂う博士の「直言」を残しておきたく、また、現状の日本の教訓にもなると思いますので、ここに残させて頂きたいと思います。

博士の経歴は、早川書房の『世界大不況からの脱出』の著者紹介で次のように紹介されています。

『ポール・クルーグマン博士は1953年ニューヨーク生まれ。イェール大学助教授、MIT教授、スタンフォード大学教授を経て、現在プリンストン大学教授。大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行やEC委員会の経済コンサルタントを歴任。ニューヨーク・タイムズの辛口コラムニストとしても人気が高い。1991年、40歳以下の最も優れた経済学者に贈られるジョン・ベイズ・クラーク賞受賞。2008年、ノーベル経済学賞受賞。
著書に『グローバル経済を動かす愚かな人々』、『嘘つき大統領のデタラメ経済』、『嘘つき大統領のアブない最終目標』、『格差はつくられた』(以下、早川書房刊)など多数。』

そう言えば、この朝日新聞の『クルーグマンコラム』も元は、NYタイムス発信の記事です。

『 クルーグマンコラム
               @NYタイムス
      真っ暗になる米国   崩れゆく社会基盤と公教育

ポール・クルーグマン教授
Paul Krugman 53年生まれ。米プリンストン大教授。
08年にノーベル経済学賞受賞。

 米国の至る所で明かりが消えつつある。まさに文字通りの意味で。(内陸部コロラド州の)コロラドスプリングズは街灯の3分の1を消すことで財政支出を節約しようという必死の試みで新聞の見出しを飾った。だが、おなじようなことがらが(東海岸側の)フィラデルフィアから(西海岸側カリフォルニア州の)フレズノまで、この国のあらゆる場所で起こりつつあり、もしくは検討されているのだ。
 それと同時に、(五大湖と大西洋を結ぶ)エリー運河から各州を結ぶ幹線道路網にいたるまで、かつて先見の明のある投資で世界を驚嘆させた国が、今や自らそれらを未舗装の状態にしている。多くの州では、地方政府はもはや財政的に維持できない道路を壊し、砂利道に戻しているのだ。
 そして、かつて教育を非常に重視していた国(最初にすべての子どもに基礎教育を提供した国家の一つである)が、今や教育費を削減している。教師は一時解雇され、教育関連の数々のプログラムが撤廃されている。ハワイ州では年間の授業期間自体が徹底的に短縮されている。これらはいずれも、今後、一層多くの削減があることを示唆している。
 私たちはこう聞かされている。私たちに選択の余地はなく、政府の基本的な機能(何世代にもわたって提供されてきた欠くことのできない公的サービス)すら、もはや財源の余裕がないのだ、と。景気後退で深刻な打撃を受けた州や地方の財政が困窮状態であることは事実だ。だが、地元の政治家たちが少なくとも何らかの増税をすることをいとわなかったなら、州や地方の政府はこれほどまでに厳しい財政状況にはなっていなかったはずである。
 また、連邦政府はインフレ連動型の長期国債をたったの1.04%という金利で売ることが可能であり、金欠状態などにはないのだ。連邦政府は米国の社会基盤と米国の子供たちの未来を守るために、地方政府を支援することができるし、そうすべきなのだ。
 しかし、連邦政府はほんのわずかな支援を提供しているだけで、それもしぶしぶやっているにすぎない。共和党議員や民主党の「中道派」議員は「我々は財政赤字の削減を優先しなければならない」と主張する。そして、ほとんど次の瞬間、連中は「我々は非常に裕福な人々への減税を維持しなければならない。その財政コストは今後10年で7千億ドルになる」と主張する。

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 実際、米国の政治階級の大部分は優先順位をはっきりさせている。最も裕福な2%程度の国民に、好況だったクリントン政権時の税率で再び税金を納めるよう求めるか、あるいは国家の基盤が崩れるままに任せるか(道路は文字通りの意味で、教育は比喩的な意味で)のどちらかを選ぶかと問うと、大多数は後者を選択しているのだ。
 これは短期的にも、長期的にも、破滅的な選択である。短期的には、このような州・地方政府の支出削減は経済にとって大きな障害であり、壊滅的なまでに高い失業率を長期化させる。
 オバマ大統領の下で政府支出が増大したと誰かがわめき散らすのを聞いた時に、州・地方政府のことに留意するのは極めて重要である。もちろんあなたが考えているほどではないにせよ、連邦政府の支出は増えている。だが、州・地方政府は支出を削減している。そしてこれら全体を合わせてみれば、支出が大幅に増加しているのは、景気後退の深刻さから経費が急増した失業保険のようなセーフティネット(安全網)のプログラムだけだということが明らかになる。
 このことはつまり、景気刺激策は失敗だったと主張されているが、政府支出全体に注目すれば、ほとんど何の刺激策も行われていないということなのだ。主要な州や地方での予算削減が続くと同時に、今や連邦政府の財政支出も先細りになりつつあり、私たちは後退へと向かっているのである。
 だが、富裕層への税金を低く維持することも、ある種の景気刺激策なのだろうか? それはあなたが気付くほどのものではない。学校の教師の仕事を救えば、それは疑いの余地なく雇用を支えることになる。富裕層により多くのカネを与えれば、カネの大半は役にたたないままに終る可能性が高い。

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 経済の将来はどうなるのだろうか?
 経済成長について私たちが知っているあらゆることからすれば、成長には高い教育を受けた人々と高い品質の社会基盤が決定的に重要である。新興諸国は国内の道路や港湾、学校を改良するのに多大な努力を払っている。なのに米国はそれから後退しつつある。
 なぜ、私たちはこんな状況に至ってしまったのか? それはこの30年間に及ぶ反政府のレトリックの論理的帰結なのだ。このレトリックは、税金で徴収される1ドルは常に無駄に使われる1ドルであり、公共部門は何一つ正しいことが行えないのだと多くの有権者に信じ込ませてきた。
 反政府のキャンペーンは常に、無駄と不正に反対するという観点から表現されてきた。例えば、キャデラックを乗り回す女王のような生活を送る生活保護者に送られる小切手、とか、無駄に書類ばかり作っている役人の大群、とか。だが当然、そんな主張は根拠のない話だ。右派が主張するほどの大規模な無駄や不正などはなかったのだ。
 そして、今やそのキャンペーンが実を結び、何が実際に非難の対象になっていたのかを私たちは目にしている。それはつまり、非常に裕福な人々を除くすべての国民が必要とするサービスであり、政府が提供しなければならなず、政府以外には誰も提供しないサービスなのだ。それは例えば、街灯のある街路、車が走ることのできる道路、全国民への適切な学校教育、である。
 この長年にわたる反政府キャンペーンの結果、私たちは破滅的なほど間違った方向へとハンドルを切ってしまった。今、米国は明かりのない、未舗装の砂利道の上で、どこにも通じていない道の上で立ち往生しているのである。  (NYタイムズ・8月9日付)
(2010年8月12日 朝日新聞 掲載)』

米国の状況は、その『制度』からしても日本とはかなり異なっていますが、日本は米国と比較して「同じ状況」の部分と「異なる状況」の部分を知り、そこから色々な『教訓』を得る事ができると思います。例えば、

『私たちはこう聞かされている。私たちに選択の余地はなく、政府の基本的な機能(何世代にもわたって提供されてきた欠くことのできない公的サービス)すら、もはや財源の余裕がないのだ、と。景気後退で深刻な打撃を受けた州や地方の財政が困窮状態であることは事実だ。だが、地元の政治家たちが少なくとも何らかの増税をすることをいとわなかったなら、州や地方の政府はこれほどまでに厳しい財政状況にはなっていなかったはずである。』

ですが、日本の状況と似ていると言えるでしょう。しかし、その『内容』はかなり異なると思います。米国のGDPは13.75兆ドル(2008年)。財政状況は、国家の借入金が11兆7000億ドル(2009年8月)。海外債務が13兆6418億700万ドル(GDPの95.6%、2008年第4四半期)。歳入は2兆5230億ドル(2008年)、そして歳出が3兆1500億ドル(2008年)確かに債務超過状態ですね。
一方、日本はと言えば、GDPは515兆4730億円(第2位)約4兆3834億ドル(2007年推定)。財政状況は国庫借入金がGDPの147%の776兆円(国・地方公共団体の長期債務残高)。海外債務は293兆671億円ですが海外債権が519兆179億円あり、これを合算すれば海外債権が225兆5080億円もあります(財務省HP http://www.mof.go.jp/1c018.htm 参)。歳入は83兆613億円(2008年)、そして歳出も83兆613億円(2008年)。これはバランス・シート的記載のためですね。実際の(広義の)税収は57兆7133億円ですね。

もちろんこれは2008年の数字で、それから日本は財政状況がさらに「悪化」していますから、日本も「財政が困窮状態」ではあるかも知れませんが、不思議な事に、財務省のHPを見ると、「日本の財政破綻は近い」と言われている間も、海外債権は増加して行っております。数字を挙げると、2002年179兆2570円、2003年175兆3080億円、2004年172兆8180億円、2004年185兆7970億円、2005年180兆6990億円、2006年215兆180億円、2007年250兆2210億円、2008年225兆5080億円、2009年266兆2230億円です。まるで海外への資産租界のようですね。コレ自体、財務省が発表しています(上のHPアドレスと同じ所です)。これにさらに高橋洋一氏が言われるように「官僚が75兆円隠している」のであり、さらに『資産』は金融資産だけではないですから、トータルしてみれば、財務省が公言している、
「一般政府の債務残高の対GDP比をみても、他の主要先進国は着実に財政の健全化を進めた結果、横ばい又は減少する傾向にありますが、日本は急激に悪化しており、主要先進国中最悪の水準となっております」
と言うのは少し疑わしくなってきます。国債発行高に近い数字の海外債権が増えていますから、高橋氏が言うように、
「財務省は、増税したくて仕方が無い」
と言う、「何が何でも“増税”ありき」と言うことに非常に信憑性が出てきてしまいます。

ただ、確かにこのままの『国家経営』をしていると、多くの問題が出てくることは否めません。『貧富の格差』は増大しており、一部の富裕層と大多数の貧困層が生まれ、本来国家を支える『中間層』が(著しく)減少していることは事実で、これは『政府の経済政策』の問題でもあります。政府は格差を少なくするために税制などの手段によって、資産の『再配分』を行わなくてはなりません。ただ、『税制』は非常にデリケートな部分があり、その『制度設計』は非常に難しく、専門家の間でも様々に意見が分かれ議論され続けるところではあります。さらに問題なのは『将来負担』ですね。『(超)少子高齢化』社会になると、『社会負担』は確実に増えます。その「不安」が益々『少子化』を招く……いわゆる『負のスパイラル』状態ですね。先の『貧富の格差』も、「将来不安」を招いています。日本は『グローバリゼーション(グローバル・スタンダード)』と言う名の『アメリカン・スタンダード』を受け入れてしまいましたが、アメリカは極端な『競争社会』(もちろん、アメリカも古き良き次代は『健全な中間層』が居ました)で、極論を言えば「貧者は死ね」と言うような社会です。ただ、アメリカの救いはアメリカにはキリスト教の文化があって、「富者は貧者に施しをする」習慣があって、それが『セーフティ・ネット』になっています。また更には『ボランティア』も根付いています。日本にはそれらの文化は希薄で、結局は政府や地方政府が公金でそれらの人々を養わなければなりません(生活保護等々)。そうなると、「自らまいた種」なのですけど、本当に『財政破綻』の可能性が高くなってしまいます。或いはアメリカ流に割り切って「貧者は死ね」社会を作り上げるか、それよりも可能性が高いのは、わたし個人的には『共倒れ社会』になると思います。あまり考えたくはありませんが、『犯罪率』は上昇し、その対策のための『社会費用』が発生したり、非常に『無駄』の多い、『非効率』な社会になるかも知れません。

『オバマ大統領の下で政府支出が増大したと誰かがわめき散らすのを聞いた時に、州・地方政府のことに留意するのは極めて重要である。もちろんあなたが考えているほどではないにせよ、連邦政府の支出は増えている。だが、州・地方政府は支出を削減している。そしてこれら全体を合わせてみれば、支出が大幅に増加しているのは、景気後退の深刻さから経費が急増した失業保険のようなセーフティネット(安全網)のプログラムだけだということが明らかになる。』

も「耳の痛い話」ではないでしょうか。日本政府は『緊急経済対策』として多額の『財政出動』をしましたが、わたしたちの国も同様で、『景気刺激策は失敗だったと主張されているが、政府支出全体に注目すれば、ほとんど何の刺激策も行われていないということなのだ』に“近い”状況ではないでしょうか。一方で「アクセル」を踏み、もう一方で「ブレーキ」を踏んでいる状態ですね。

もう一つだけ言えば、『マンデル-フレミングの法則』から言えば、『不況(恐慌)』時には、『財政政策は殆ど効果がない。金融政策こそ重要』なのですが、我が国は直ぐに『財政政策』で何でも解決しようとしますよね。そしてそれをもって『ケインジアン』であると主張されますが、ケインズは常時の財政出動も肯定していたのでしょうか。もう一度、ケインズの原著を読み直して欲しいです。
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現代の閉塞感のある世界がもう少しだけ住みやすくなれば良いなぁ、などと考えております。今の状況の延長線を自分たちの子供たちや孫たちへバトンを渡すのは余りにも無責任だと思っています。大学は工学系卒。国立K大学の経済学研究科大学院修士。博士課程考慮中…。この国の未来への良きシナリオを描きたいと思いトボトボと歩いてるって感じです。ただ最近は、当方の怠慢のせいでtwitterまとめ、或いは「忘備録」化してます…。しかし、同志さんたち大歓迎です。

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